はじめに｜なぜ今、LPガスの法律が変わったのか？

日本全国の家庭や事業所にエネルギーを供給しているLPガス（プロパンガス）は、
都市ガスと異なり自由料金制が導入されています。これは一見すると「競争原理が働く」ように見えますが、
現実には多くの消費者が料金の仕組みを十分に理解できず、業界内部では非透明な取引慣行が温存されてきました。

特に問題視されていたのが、「無償貸与」「囲い込み契約」「利益供与」「料金の不透明さ」です。
これらは一部の事業者によって行われ、LPガスの本来あるべき「公正な供給体制」を歪めてきました。
このような背景から、経済産業省は2024年から2025年にかけて段階的な法改正を実施しました。

【時系列解説】LPガス法改正の3つの柱とその施行時期

① 過大な営業行為の規制（施行日：2024年7月2日）

LPガス事業者が顧客や不動産業者に対して、過剰な営業行為を行うことが禁止されました。
以下のような行為が「不当な利益供与」として規制対象になります：

• 無償貸与：ガス配管、給湯器、ガスコンロなどを「無料」で設置し、実際はガス料金に上乗せして回収
• リベート：物件オーナーや仲介業者への現金・商品券の提供などの紹介報酬
• 囲い込み契約：ガス供給会社を変更できないような縛り付きの契約

この規制により、消費者が本来負担する必要のない費用をガス料金として支払わされる状況が大きく改善されます。
また、ガス会社と特定不動産業者との癒着構造が断たれ、市場の公正性が高まります。

② ガス料金の三部構成と表示義務（施行日：2025年4月2日）

これまで多くの消費者は「基本料金」と「従量料金」だけに注目しがちでしたが、
実際にはガスに関係ない費用が含まれていることがありました。
今後は以下の3つの項目で料金の明細表示が義務化されます：

• 基本料金：メーター管理・保守・点検などにかかる固定費
• 従量料金：使用したガス量に応じた変動費（m³あたり）
• 設備料金：給湯器や配管、設置工事などにかかる費用

さらに、次のような設備費用をガス料金に含めることは明確に禁止されました：

• インターネット回線やWi-Fi機器
• エアコンや電気給湯器などの電化製品
• スマートロックや防犯カメラなどガスと無関係な設備

これにより、ガス料金の透明性が大幅に向上し、消費者の適正負担が保証される仕組みが整います。

③ 入居前の情報開示義務（施行日：2024年7月2日）

賃貸物件において、入居者が「ガス会社を選べない」という現実を踏まえ、以下の取り組みが導入されました：

• 物件の仲介時点で、可能な限りLPガス料金の目安を提示する「努力義務」
• 入居希望者から要望があった場合、ガス会社は料金情報を開示する義務

入居後に「ガス代が高すぎる！」というトラブルを避けるため、事前の情報提供が非常に重要です。
このルールにより、消費者が納得した上で契約する環境が整いつつあります。

消費者・不動産業者・ガス会社それぞれの対応策

■ 消費者がとるべき行動

• 引越しや契約前に「LPガス会社名」と「料金体系」を確認する
• 設備費用が料金に含まれていないかを契約書や請求書でチェック
• 同地域内で複数のガス会社の料金を比較検討する（相見積もり）

■ 不動産管理会社・大家が行うべき対応

• ガス会社との契約内容を再確認し、過大な利益供与がないか見直す
• 入居者からの問い合わせに備え、ガス料金の資料を準備しておく
• 「三部料金明示型」の契約に変更し、違法行為を未然に防ぐ

■ ガス販売事業者に求められること

• 営業・設置・契約業務すべてにおいて、法令順守を徹底する
• 利益供与に頼らない、正当な価格競争による営業戦略の構築
• 顧客への料金説明責任を明確に果たし、信頼を獲得する

まとめ｜ガス業界は「見える化」と「透明性」が鍵の時代へ

2024〜2025年に行われたLPガス法改正は、「料金の見える化」「営業の健全化」「情報提供の義務化」という3つの観点から、
消費者保護を大きく前進させるものでした。これは単なる制度変更ではなく、業界構造そのものを変える改革です。

消費者、不動産業者、ガス販売事業者それぞれがこの変化に対応し、ルールを正しく理解・運用することで、
日本のエネルギー供給の公正性と安心感がより一層高まるといえるでしょう。

本記事が、LPガスに関わるすべての方にとっての実用的なガイドとなることを願っています。